花を摘むひと

 自分の親は、中々ロマンチストであった。劇的な再会からの、君なしじゃ生きていけない系プロポーズ。父の机の引き出しには、若い頃デートした時に撮影した母の写真が手作りの小さな木のフレームに収まって大事に仕舞われていた。写っている母の姿がまた、腰まであるストレートの黒髪に白いワンピース、頭には麦わら帽子。手には手作りのお弁当の入ったバスケットという完璧さだ。

 これが普通だと思って幼少時は生きてきたので、友達に自分の親のことを話すと度々「うちの親はそんなことしないよ!」と言われていた。

 ある時友達を連れて実家に帰り、母が留守番をして父が運転手役を買ってくれて近郊を観光案内したことがある。車を降りて散策しているときに、原っぱにユキノシタが咲いているのを見つけた。

 父は、

「可愛い花だ。お母さんに摘んで帰ろう。お母さん花が好きだから」

 と言って少し摘んで持ち帰った。

 私はそうだねと同意していただけだったが、友は、優しい、ロマンチック! と驚いていた。

 ユキノシタは父の手によって持ち帰られ、母の手によって小さな花瓶に生けられて食卓に飾られ、暫く私達の目を楽しませてくれた。

 私は花は勿論のこと、父も母も、可愛いと思うのだ。

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