おかしらつき

 小さい頃からいろんな本を読んでいた。もう今ではなんという本だったかも思い出せないが、晩ご飯の食卓についた主人公の少年が 「わーい、おかしらつきだ!」 と叫ぶシーンがあった。

 おかしらとは頭だとは思ったが、なぜそれがそんなに飛上がるほど嬉しいのか、当時の私にはわからなかった。母に聞いて、頭と尻尾がついたまるまる一匹の魚のことだと教えてもらったが、それがどうして特別なのか理解できなかったのだ。晩ごはんに秋刀魚や鮎なんかが、まるごと一匹出てくるのはよくあるのに、そんなに特別なことなのだろうか、と。

 言葉の意味というのは、上っ面の意味だけで理解できるものではなく。尾頭付きの特別感が理解できるようになったのはだいぶ後だった。

 昔は冷蔵技術が今とは異なっていたこともあり、まるまる一匹の魚を一般家庭で用意するというのは大変だったのだ。

 大変貴重でもあり、切り分けられていないこと、「一つの事を初めから終わりまでまっとうする」ということから縁起も良いとされていた。

 だから、結婚式やお食い初めなどハレの日には尾頭付きが使われる。

 頭が左側なのも、左の方が上位だから。

 そう言えば、家の雛飾りはお内裏様が左側だった。向かって左にいるのがお雛様。地元の友人たちには「逆だ」「おかしい」とよく言われた。

 日常の何気ないところにも、長い歴史の中で培われたことが根付いている。

 それは、とても美しいことだと思うのだ。

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